前田崇雄と室岡努がつくる帽子にはかなり特徴的な哲学がある。ひと言でいうなら機能がデザインになるのだ。理想の帽子づくりが「A WANDERING TAILOR」にはあるといっても過言ではない。
「帽子にとってファンクションはとても大事な役割です。例えば空気を通りやすくすると蒸れない、これを素材に頼る方法もあると思うのですが、どうやったらより風通しが良くなるか、ということを考えてそれを機能として突出させずに、デザインに落とし込んでいくというやり方をしています」
と前田。「A WANDERING TAILOR」は前田がひとりでミシンを運び、様々な場所で帽子をつくることから始まった。
帽子づくりは、デザイナーがいて、数人の職人がいる工房でつくる、もしくはブランドがあって、それを工場でつくるというのが主流。
しかし、前田と室岡はふたりが別々にデザインをし、商品の製作までを自分たちでつくる。ユニットというにはふたりの共同での作業は少なく、また、お互いの製作へのアプローチがかなり異なっているのも目を引くところだ。
「ぼくらのつくり方はまったく違っていて、お互いのつくり方を交換することもできないんです。ぼくは頭の形に型紙を置いてつくっていく立体裁断ですが、前田はパターンが先にあってその組み合わせで作り上げていくんです。同じ帽子をつくってもできあがりもまったく違います」と室岡。
その違いはまず型紙に表れている。室岡の型紙は一枚であるのに対して、前田の型紙はたくさんのピースがある。この違いは冠ったときにわかるかもしれない。そして、このつくり方の違いこそが「A WANDERING TAILOR」の個性になっているのだ。
つくり手が誰なのかを想像してみるのも「A WANDERING TAILOR」の楽しみかもしれない。
Photo & text :Toru Kitahara(PLEASE)